指導要録の文例

 これまで,振り返り記述の集積方法やその活用の仕方について紹介してきました。自分なりの方法で子どもの学習状況や成長の様子を把握し,評価に活かしていただきたいと思います。最後に,指導要録の文例を紹介します。評価の視点は,前述した3つの視点です。再掲します。

  • 一面的な見方から多面的な見方へと発展させている。
  • 道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めている。
  • (発言が多くない子どもや考えたことを文章に記述することが苦手な子どもが)教師や他の子どもの発言を取り入れつつ,考えを深めようとしている。

この考えの下、次の9つの視点から、子どもの学習状況を把握し、指導要録の文例を考えてみました。

①多面的・多角的に考えることができるようになってきた

文例1  自分とは異なる考え方にも着目して,「どちらの考え方も大切にするにはどうしたらよいか」と具体的な行動の仕方を考えた。
文例2  一つの考え方にこだわらずに,いろいろな面から根拠を蓄積して,自分も他の人も納得できる考えを導き出そうとしていた。

②道徳的価値について深く考えていた

文例1 「規則を守ることはなぜ大切なのか」「正直に言うことは本当に大切なのか」など,道徳的価値の大切さについて追求していた。
文例2 「本当の友情とはどういうことか」「本当の思いやりとはどういうことか」と道徳的価値の本質について深く考えるようになった

③自己を見つめることができるようになってきた

文例1 どの教材でも登場人物に自分を重ね,「自分ならどうするか」を考えたり,「主人公の気持ちとても分かる」と自己を見つめたりしながら発言をした。
文例2 「助けてもらってうれしくて涙を流したことがあった」などと自己の経験を想起することで,道徳手価値の大切さを実感していた。

④大切だと考えた道徳的価値を,具体的な行動につなげようとした

文例1 「大切だと考えたことを実現するにはどう行動したらよいか」と実践化を目指し,具体的なよりよい行動の仕方を考え出した。
文例2 「今学んだことは,生活のどんな場面で活用できるだろうか」と考え,学校や家庭生活で活かすことのできる場面を想起していた。

⑤以前に学んだ道徳で大切な見方・考え方を活用した

文例1  道徳的価値の本質を考えるという学び方を活用して,「本当の友情とは?」「本当の思いやりとは?」と深く追求しようとした。
文例2 「自分の経験を基に考える」や「複数の行為の結果を仮定して比較する」という道徳で大切な見方・考え方を進んで活用した。

⑥実践に向けた意欲の高まりを表現した

文例1 「学んだことはとても大切なことだ。絶対にこのように行動していきたい」と学んだことを実現していこうと意欲を高めていた。
文例2 「実践度スケール」で学んだことの大切さを自覚して,「自分の生活の中でも本当にこのように行動していきたい」と発言した。

⑦自分の考えの変化(変容・強化)に気付いた

文例1 授業における最初の自分の考えと最後の考えの違いを変容として捉えるだけでなく,その要因についても考えることができた。
文例2 「○○さんの発言で自分の考えが大きく変わった」と他の考えを理解することで,自分の考えを見直したことに気付くことができた。

⑧友達との関わりを通して考えを深めた

文例1 「○○さんの考えを活かして~したい。」といった振り返りを記述するなど,友達の意見を受け止めて自分の考えを深めた。
文例2 「最初は○○だと思っていたけど,友達の考えを聞いて,△△だと考えるともっといいと思った。」など,友達の考えを自己の考えに活かしていた。

⑨(発言や記述表現が苦手な子どもが)学習に参加した

文例1 友達の意見を頷きながら聞くなど,問題場面での登場人物の気持ちやよりよい行為のあり方などについて真剣に考えていた。
文例2 「実践度スケール」(※)や「心情スケール」などを活用し,考えを表現したり,友達の考えと比較したりするなど,積極的に学習に取り組んだ。

※「実践度スケール」…道徳的価値の理解を深めた後,実践へ向けての意欲を自己評価するツール