鑑賞活動は以前よりあった作品制作中心の授業について改善するという意味でも重要視されている。それは鑑賞という活動が決して「見る」という行為だけにとどまることがなく、表現する活動においても多大な影響をもつと考えられたからである。制作途中に自らの制作を振り返り、時には級友の作品を鑑賞することで新たな試行錯誤が繰り返され、その結果、さらに充実した制作活動へと向上する。つまり、より良い表現活動の裏側には確かな鑑賞力が必要であるといえる。
そこで、鑑賞力の向上のために、感覚的鑑賞と分析的鑑賞の二つの見方で作品を鑑賞することにする。これによって言葉として作品のよさを明確にすることが可能になり、より深い鑑賞活動ができると考えた。印象を言葉にする活動と、作品を技能的な観点から鑑賞する活動を通して生徒たちの鑑賞の力が高まると考えた。
(1) 感覚的鑑賞と分析的鑑賞
感覚的鑑賞では、自由な見方と感想を尊重し、言葉や制作で自分の気持ちを表現する力を身に付けさせる意図がある。作品と対面し、その迫力と存在感に揺れ動く心を相手にどのように伝えるかによって、生徒が作品を深く味わうことのきっかけになると考えられる。(ただし、自由な感想を述べあうという活動にとどまり、どこまで深く作品を鑑賞をしたかを評価をすることが難しいという面も併せもつので注意が必要である)
分析的鑑賞では、作品制作の着眼点についてあらかじめ説明し、生徒たちは評価の観点を理解して鑑賞をする。また、分析的鑑賞については下記の段階をもって授業を進めることによって有効である。焦点化と比較の観点を段階的に示すことにより、よさや違いを分析的に読み解くことができる。
①作品の提示
②作品の見方についての指示(内容・形式的要素の記述と発見、記述以外の作業・比較・模写など)
③発表と討論
④まとめ
(2) 言語活動の充実
自分なりの意見や考え方を生徒同士で話し合わせることで、さらに考えを広げ深めることができると考えた。美術における言語活動の主たるものとして、制作の意図や工夫したところを説明したり、作品のよさを言葉として伝えたりすることがあげられる。鑑賞の授業で、技術的な特徴や効果や作品から受ける印象を言葉にすることで、どのような心境で作品を鑑賞したのかがいきいきとした言葉で伝達されるように工夫をした。