本研究の目的は,道徳の時間における生徒の「思考・判断・表現」に着目し,その適切な評価のあり方と評価方法の工夫を明らかにすることで,道徳の時間における授業改善の示唆を得ることである。
多くの道徳の時間では,ワークシートやノートに自分の考えや意見を記述させたり,立場を明確にして討論をさせたりすることはあっても,思考ツールを用いて生徒の思考を可視化して,交流・検討を組織させることはなかった。そこで新たに上記テーマをもとに研究を行うことにした。
思考ツールとは,黒上(2012)の述べている思考ツールを援用し,「思考を書き込むための図や枠組みであり,考えを可視化するための図」と定義した。
中学1年で授業を実践し,その効果を検証した。主として,次の2点の手立てを講じた。
ア 「価値の明確化」理論に基づき,学習過程を構想し,意図的に評価場面を位置付ける。
イ 評価場面で,「思考ツールを用いて自分の意見や考えを表現すること」と「可視化したツールを用いて他者と交流・検討を行うこと」を設定する。
分析としては,生徒は道徳的な価値を理解し,自分自身の変容を自覚することができた。一方,資料や発問に応じて,適切な思考ツールを選択することが重要になることや思考ツールを用いて交流・検討させる際に議論点をどのようにして焦点付けるかが課題として見えてきた。