児童が書いた文章を読むと、一貫した論理が読み取れないことがあります。論理に対する捉えが未熟であることや、意図に合わせて適切に表現できないことが原因と考えます。内田(2017)によると、文章産出では、書く過程において、書き手の意図と表現の間で往復運動が起き、表現が決まることや、個々の書き手が保持する基準によって見直しが図られることが述べられています。ここから、書き手が「何のために書くのか」「書きたいことは何か」と、自ら目的と意図を問い直すこと、さらに、書き手の基準に論理性が加わることで、問い直しの質が向上し、論理的な文章が書けるのではないかと考えました。
そこで本研究では、小学校第6学年国語科「書くこと」領域の単元を対象に、以下の手だてを講じ、その有効性を探りました。
1 目的や意図に応じて書かせるための「観点」を整理し、示す。
小学校学習指導要領国語「思考力・判断力・表現力等」に関わる事項を取り上げ、文章構成や表現をより明快にするための観点として整理しました。
2 モデルを比較する活動を通して、具体的な表現から読み手側の観点に整理する。
児童の実態を踏まえて作成した構成段階のモデルを複数示し、それぞれの特徴を比較させました。どのような観点で文章の見直しが図られるとよいのか、具体的な記述を通して気付かせました。
3 観点を基に自らの文章を見直す活動を単元の中で複数回取り入れる。
新たな観点や、既習の観点を自分の文章に適用したり、他者から見直してもらったりする活動を設定し、論理性を意識しながら文章を作成できるようにしました。さらに、構想、構成、記述、推敲という文章産出の過程に柔軟性をもたせ、それぞれの段階に戻って検討がなされるようにしました。
成果物や振り返り記述を分析したところ、論理性のある文章のよさに気付いていることを読み取ることができました。また、観点を基に見直しや検討がなされ、論理性のある構成や記述が書かれるようになりました。書き手が読み手の立場を繰り返し経験し、自分の中に優れた読み手を作ることによって、より論理性のある文章が書けるようになっていきます。書くことと読むことのつながりを意識した授業とはどのようなものか、今後の実践で明らかにしていきたいです。
〈参考文献〉
秋田喜代美 学びの心理学-授業をデザインする 東京:左右社、2012年
内田伸子 発達の心理-ことばの獲得と学び 東京:サイエンス社、2017年