新学習指導要領における図画工作科の課題として、感性や想像力等を働かせて、思考・判断し、表現したり鑑賞したりするなどの資質・能力を相互に関連させながら育成することが求められている。子どもが自分の思いで表現をする際、学級の人間関係、教師の感覚やスキルも表現に大きく関わる要件となる。実際、指導方法は様々にあり、教師の指導で子どもの表現が偏る場合も少なくない。一人一人の思いを大切にしつつも、教師の意図が先に立ち、見栄えのする絵を求めて指導することもある。図画工作科も、他の教科と同様に学校全体で授業改善に取り組み、豊かに表現したり鑑賞したりする力や、他者と豊かに関わる態度を育むことが喫緊の課題である。
そこで、表現及び鑑賞の実際の授業実践において、児童相互の対話による言語活動を充実させ、児童が様々な対象と関わることを通して、新しい見方を手に入れ、考えを深めたり広げたりできるか、以下の実践で表現と鑑賞を関連させる手だてを講じ、その成果を検証した。
(1)「見えないものを見てみよう」鑑賞5年生H27(美術作品をファシリテーションの手法で鑑賞する)
(2)「名前でアート」平面6年生H28(少人数グループで児童作品を対話しながら鑑賞する)
(3)「一瞬の形から」立体6年生H28(思考ツール「同心円チャート」で表現と鑑賞を関連させる)
(4)「お気に入りの風景」平面6年生H28(表現における言語活動)
(5)「名画の世界を取り入れよう」版画6年生H28(アートカードで鑑賞と表現をつなぐ)
(6)「大すきなものがたり」平面3年生H29(鑑賞タイムで鑑賞と表現をつなぐ)
(7)「すてきなひまわり」平面3年生H29(中学年児童による対話での鑑賞会)
(8)「自然物アートにチャレンジ」造形遊び3年生H29(小中一貫の異年齢交流で対話を生む)
(9)「いろいろうつして」版画3年生H29(鑑賞による友達の影響を考える)
(10)「まぼろしの花」平面4年生H30(2段階の表現で対話による鑑賞を生む)
(11)「大すきな物語」平面4年生H30(表現における言語活動)
これらの実践を通して、対話によって他者の目線に立って鑑賞したり、自己の表現の幅を広げたりする姿が見られた。児童は、自分の作品を見つめ直したり、他の児童やその作品と関わったりすることで、見方や感じ方を広げたと言える。また、その広がりを児童自身が自覚することもできた。
本研究では、まずは児童相互の対話によって、どの学級においても見方や感じ方を広げられる可能性を見出した。そして、その児童の思いをつかむことで、児童の思いに寄り添った助言をすることができるようになる。対話的な学習で認められる喜びやつくりだす喜びを味わい、主体的に取り組む態度を育み、教師との対話によってさらに深い学びへと向かうのである。今後は、さらに地域の人々との対話を仕組むなど、授業自体の広がりの可能性を探っていきたい。