通常学級に在籍する小学校1年生のA児は、入学当初平仮名の読み書きがほとんどできなかった。また平仮名の学習を進めてもなかなか読み書きが定着しなかったり、教科書の音読の際にどこを読んでいるのか分からなくなってしまったりする姿が度々見られた。これらの読み書きの困難さは「見る力」の弱さからくるものだと推測された。そこで「見る力」に弱さがある児童に対して、小学校早期の段階で適切な指導と支援を講じることで、「見る力」を高め、読み書きの学習につなげることができるのではないかと考え、以下のことを実践した。
1 50音表の活用
国語の教科書に載っているものを印刷し、表に50音、裏は幼捉音の平仮名とイラストを一覧にした。イラストと結び付けて平仮名を読んだり書いたりできるように、一斉指導の中でも適宜言葉を掛け、一人でも活用することができるようにした。また授業中でも家庭学習でも手掛かりや確認が必要な時にいつでも利用することができるようにした。
2 アセスメントの実施と分析
見る力を視覚にかかわる様々な観点から検証し、学びの困難さがどこにあるのかを把握するために、ビジョン・アセスメント「WAVES(視覚関連基礎スキル検査)」を実施した。アセスメントより、A児は、見たものの形や空間を捉える力(視知覚)に弱さがあり、形や位置関係、方向などを見分けることが苦手であることが分かった。
3 WAVES「はじめてのトレーニングドリル」と平仮名学習
週に1回の個別学習では「はじめてのトレーニングドリル」と絵カード等の手掛かりを活かして平仮名の読み書きをする学習を行った。いずれもA児が楽しみながら課題に取り組むことができるようにして、少しずつ難易度を上げていった。
4 読み書きの基礎力アップのための学習
個別学習において、絵を見て足りない文字を補ったり、複数の単語を見て仲間分けしたりする学習を行った。
これらの実践の結果、A児は弱さが見られた「ものの形や空間を捉える力(視知覚)」を高めることができた。また以前よりも点の位置や線の方向などの細かい部分に注意が行くようになり、平仮名46字を正確に読んだり書いたりすることができるようになった。これにより学習の積み上げがスムーズにできるようになり、学びへの自信も深めることができた。
文字の読み書きは、学校の全ての学習において必要不可欠とされる基本的な技能である。なんらかの原因により読み書きに苦手意識をもってしまうと、学習全般に消極的になってしまうことが考えられるため、小学校入学早期から児童の困り感に寄り添い、適切な指導と支援を講ずることは大変重要であると考える。