生徒が安心して他者と関わることができ、また安心して過ごせる学級は、生徒にとって居心地の良い場所となるはずである。そのためには、生徒一人一人が自分に自信をもって他者と関わることが必要であり、自信をもつためには、自尊感情の高まりが大切である。しかし、「私は頑張っているのに、周りは分かってくれない」というような、自己評価を中心とする自尊感情だけでは、他者との関わりにおいて必ずしも自信につながるとは限らない。
そこで、必要になるのが「自己有用感に裏付けられた自尊感情」である。自己有用感は、他者から認めてもらうなどの他者評価を前提として生まれる感情であるため、「私は周囲から認められている」という自己有用感に裏付けられた自尊感情の方が、自己評価を中心とする自尊感情より強い自信につながると考えた。そこで、生徒が集団の中で自己有用感を感じ、自尊感情を高めることをねらって本実践を行った。
1 手だてについて
「1-1のいい人」活動:生徒が終学活時に振り返りノートに、その日良いことをした人の名前、行動、感想を短く記述する。その内容を学級だよりに掲載し、生徒にフィードバックする。
2 評価について
「学校評価アンケート」「学級アンケート」「Q-Uテスト」等を用いた。特に、抽出生を2名挙げて変容を追うことに重点を置き、判断することとした。
3 成果
抽出生Aは、黒板をきれいにしたことが学級だよりに載ったのをきっかけに、周囲から認められる経験を何度も繰り返すことで、更に人の役に立ちたいという気持ちが芽生え、自分に自信をもつことができた。
抽出生Bは、級友に認められた経験を基に生徒会書記局員に立候補するまでに自信をもつことができた。さらに、級友の良いところを振り返りノートに記述するなど、他者に対してより肯定的に接するようになった。
学級だよりに掲載されるという評価方法は、「誰が書いてくれたのか分からない」という点がかえって「良い行いは誰かが見ていれくれる」というプラスの効果を生んでいるように感じる。想定外の効果としては、生徒が学級だよりをよく読むようになった。金曜日の終会で配られると多くの生徒はすぐに読み始めるようになった。保護者からも学級だよりについてコメントもらう機会が増えた。さらに、生徒から報告される良い行いの数々は、担任の目の届かない場面でのことも多く、これまで見えていなかった生徒の様子を知れるようになった。