マット運動は、一人一人が自分の能力に応じ、いろいろな回転技や倒立技に挑戦し、できるようになったときに大きな喜びや楽しさを味わうことができる。回転技では、足でマットを強く蹴ることで勢いを強めたり、両手の押しを利用して技の終末で「しゃがみ立ち」や「開脚立ち」になったりすることが重要だ。倒立技においては、逆位の姿勢になった自分の体を腕で支持することが重要となる。つまり、マット運動では、「腕支持感覚」「逆さ感覚」などの運動感覚と、「足で強く蹴る」運動技能が求められる。
そこで、これらの運動感覚と運動技能を養うために、単元の中心技を「倒立」と位置付け、単元を通して「倒立」の練習に取り組ませた。「倒立」の練習を通して、次のことが身に付くと考えたからだ。①勢いよく脚を振り上げるための「足の強い蹴り」。②自分の体をしっかりと支えるための「腕支持感覚」。③日常生活ではあまり経験しない「逆さ感覚」。
本研究では、児童が「前転」「開脚前転」「後転」「開脚後転」「壁倒立」「側方倒立回転」の6つの技を基本的な技として取り上げ、これらの技を児童が安定して行えるようにすることを最終目的とする。そして、それを達成するために「倒立」の練習をさせた。「倒立」の練習を通して、基本的な技の技能が向上するのかについて、次の仮説を立てて検証した。
<研究仮説>
『マット運動において、「倒立」の練習に取り組ませることで、「腕支持感覚」「逆さ感覚」などの運動感覚や、「足で強く蹴る」などの運動技能が養われ、基本的な技(「前転」「開脚前転」「後転」「開脚後転」「壁倒立」「側方倒立回転」)の技能が向上するだろう。』
主な手だては次のとおりだ。
1 感覚つくりの運動
授業の導入で、手で体を支えたり、腰や脚の位置を高くしたりする運動遊びを行った。具体的には、「台に足を乗せてその場回り」「川跳び」「手でジャンプ」「手と足でジャンプ」「手押し車」「補助つき斜め立ち歩き」「かえるの足打ち」の7つの運動を取り上げた。
2 「倒立」の習得に向けた系統的な学習
「背支持倒立」、「かえるの逆立ち」、「頭倒立」「壁(肋木)登り倒立」「壁倒立」「補助倒立」「倒立」など、難易度の異なる様々な倒立を児童に紹介し、倒立の習得に向けて系統的に練習させた。単純な技(易しい技)から複雑な技(難しい技)へとできるだけ細かなステップの課題を示し、児童が自分の技能の進歩を僅かでも感じられるようにした。
これらの手だてにより、補助倒立も、倒立も、安定して行うことができた児童数は増加した。倒立の練習に当たっては、細かなステップの課題を設定し、児童が倒立を系統的に学習できるようにした。マット運動が苦手な児童も次のステップに向けて意欲的に練習を重ねていたことから、スモールステップの学習は、児童の能動的な練習を促したことが分かる。感覚づくりの運動や、系統的なスモールステップの学習が、児童の倒立の技能を向上させることにつながったと考えられる。
単元後に行った技能調査では、しっかりと両手を着き、マットを強く押しながら立ち上がったり、伸ばした腕で体を支えながら、腰や脚を高く上げることができる児童数が増加した。倒立の技能向上に伴って養われた運動感覚や運動技能が生かされることで、基本的な技の技能も向上した。