令和2年度の会長を拝命しました。59年度 新潟小学校の吉田隆と申します。卓越した先見性と構想力を駆使し,ときわ会をリードされてきた高橋会長から重責を引き継ぎ,身の引き締まる思いです。新潟の子どもたちの更なる活躍と成長,会員一人一人の教師としての自己実現のために全力を尽くします。どうぞよろしくお願いいたします。
本年度の代議員会は,今般の新型コロナウイルス感染予防のため,書面会議での開催を余儀なくされました。ときわ会にとって最重要の会議である代議員会に御参集いただけない状況は,まさに予測困難な時代が到来した象徴とも言えます。
このような混沌とした状況に直面した時こそ,ときわ会本旨に立ち返り,我々の使命を再確認する必要があると考えます。ときわ会本旨には,「教師たるもの時運にまどわず,歴史を省み」や「崇高な理想を追求しようとする者の総力を結集し」といった一節があります。この「時運に惑わず,歴史を省み,理想を追求する」という,ときわ会本旨に掲げられた先達の教えは,今この状況に直面する私たちにこそ,求められている姿ではないでしょうか。
今から74年前,敗戦の混乱の中から教育再建に立ち上がったのも,ときわ会の先達の皆さんでした。元ときわ会長の宮下美弘先生が,終戦直後,附属新潟小学校の教官に復帰した当時を,次のように回想録に記されています。
「教育再建の手がかりは,文部省にも大学にもなかった。私たちは,アメリカの教育使節団の動向や大正時代の新教育思想や玉川学園の実践,デューイ等のアメリカの教育等を手がかりに討論を重ねた。~中略~ 県内の教師が自信を失い,萎縮しきっていることに対し,研究の手がかりを与える必要があると考えた。~後略~」
宮下美弘先生のほか,日浦儀一郎先生,羽二生恵太郎先生などが中心となり,21年の秋,終戦後わずか1年で研究を公開しています。この時期はまだ,昭和22年の学習指導要領の試案が示される前であったことからも,手探りで論を創り上げ実践を公開したことが伺えます。その1年半後の昭和23年6月には,統合的教育課程として『新潟プラン』を発表し,全国的に注目されることとなりました。
同時期に発表された「明石プラン」や「桜田プラン」など,全国各地の学校現場からのカリキュラムの提案が,後の学習指導要領の策定に影響を及ぼしたことは言うまでもありません。
この戦後の混乱からのスタートと,令和2年度の混沌とした状況の中でのスタートは,背景は違うものの重なるところがあります。さらに,教育内容の変革期であることも共通しています。
学習指導要領が小学校では全面実施となり,中学校では1年を切りました。新たにプログラミング教育,「特別の教科道徳」,小学校高学年の「外国語科」などが盛り込まれ,多岐に渡る内容の実践的指導力が必要となります。しかし,学習指導要領をこなすことだけが目的となってはいけません。
前述の「新潟プラン」が,学習指導要領に影響を及ぼすカリキュラム案の一つであった通り,本来,学習指導要領は学校現場の叡智を基に策定されるものです。そして,示された学習指導要領は,各校の特色ある教育課程の編成や,目の前の子どもたちの実態に即した学習の在り方を展望するために活用されるべきものです。
そのような本質に立ち返り,我々ときわ会員は,激しく変わりゆく予測困難な時代に対応した教育はどうあるべきかを考え,子どもたちが未来社会をたくましく生き抜いていくための資質・能力を育成していく必要があります。
そして同時に,予測困難な時代を生き抜いていく力が求められるのは我々教師自身であることを,新型コロナウイルス対応を通して気づかされる事態となりました。さらに,働き方改革を推進する中で,教職の誇りや魅力をしっかりと発信していく必要性も高まっています。
正解モデルのない複数の課題を同時に解決していくことが求められる今こそ,我々ときわ会員が先見性,創造性,実行力を示していかなければなりません。
そこで本年度は,「新しい時代の教育を創るときわ会」を基本方針に掲げ,全会員一丸となって,更なる歩みを進めていきたいと考えています。令和2年度の活動の重点で,具体的な方策が示されていますが,その上で,私が大切にしたいことを2点述べさせてもらいます。
一つ目は,研修と親睦の両立です。
ときわ会会則には,ときわ会の目的として,「会員の資質向上と本県教育の振興に寄与すること」と明示されています。さらに,そのための事業として,一に研修,二に親睦・互助とあります。研修と親睦はときわ会の活動の両輪です。
授業改革をはじめとする新しい時代の教育を創り出すための研修を充実させることは勿論,同時に親睦の機会の充実は,会の組織力向上の根幹です。しかし今,働き方改革の推進で親睦の機会が減少傾向にある中,さらに,人と人との密接な関わりを制限せざるを得ない事態に陥っています。会員同士のつながりが希薄になってしまわないかと危惧しているのは私だけではないと思います。
AI時代に生き残る仕事は,複雑な対人コミュニケーションを必要とする仕事や創造性が求められる仕事だそうです。生産性の高い仕事を生み出すのは,そのチームのコミュニケーションを基盤とした信頼関係が鍵であるとも言われています。直接顔を合わせることが厳しい状況下においても,信頼関係づくりの土台となる会員同士のつながりを生み出すべく,ホームページの活用や遠隔会議システムの導入を進めます。この難局をチャンスに変えられるよう,ときわ会員の創造性を発揮していきましょう。
二つ目は,ベテランの知恵と若手の発想の融合です。
民間におけるイノベーションは,主に若手の起業家の活躍や,各会社の若手の発想によって生み出されているのは周知の通りです。冒頭紹介した「新潟プラン」を創り上げたのも,宮下先生は当時35歳,他のメンバーも20代後半から30代前半のメンバーでした。
大きな船を動かすためには,ベテランの経験に基づく組織運営や危機管理等のノウハウが必要不可欠であると同時に,新たな地平を見つけ出すためには,若手の力が必要です。
そこで,令和2年度は若手の登用の第一歩として,ときわ未来図推進委員に20代,30代の若手も登用します。新しい時代の研修や組織の在り方を探っていく上で,若手の皆さんの斬新な発想に大きな期待を寄せています。
結びになりますが,ときわ会創設150周年まで,あと3年となりました。混沌とした令和2年度のスタートとなりましたが,今の経験を未来への礎とし,150周年の先を見据えて,新しい時代の教育を創り出してまいりましょう。
そして,これからも高い志をもち,新潟県や日本の教育をリードする研修団体として,会員一丸となって歩みを進めていくことをお願い申し上げ,所信の挨拶とさせていただきます。
活動計画はこちら