系統的展開の強い現在の算数教育において、児童は既有の知識に基づいて新たな知識を創りだす(阿部、2013)。
しかしながら、その新しい知識を創りだした後でも、既有の知識に固執してしまう児童が現れる。例えば、「平行四辺形の面積」では、その公式を言葉で記述することやそれを用いて求積することはできても、多くの児童が「高さ」を斜辺と混同することが指摘されている(清野、2011;辻、2012)。また、平成19年度の全国学力・学習状況調査においても、多様な情報が示された中で平行四辺形の面積について考える問題では、(底辺の長さ)×(斜辺の長さ)で求めている解答が34.4%も表れた(国立教育政策研究所、2007)。
このような「ミスコンセプション」(平行四辺形の求積を、長方形の求積のように『辺×辺』で求めてしまう)の解消は、算数教育における重要な課題の1つといえる。
そこで本研究では、この「ミスコンセプション」の解消を図るために、2つの理論を用いる。1つ目は、コンセプションの静態の四面体モデル(大滝、2013)である。このモデルでは、既有知識から新しい知識への発展性を明らかにすることができ、新しい知識のもとで既有知識が残ることを「ミスコンセプション」として捉えることができる。ゆえにこのモデルを用いて、児童の概念形成の状態と「ミスコンセプション」の要因を明らかにする。
2つ目は、数学的概念形成理論である否定論(岩崎、1992)である。この否定論は、「1 今までの方法ではできないことを意識させる段階(限界の認識)」「2 どうやったらできるか考えさせ、共通点を見いだし、新しい概念を捉えさせる段階」「3 なぜ今までの方法ではできなかったのか考え、比較しながら、概念間の関係性を捉えさせる段階」の3段階で構成されている。これらの過程を経て、ミスコンセプションの解消を図る。
この2つのモデルを用いて児童のミスコンセプションが解消される様相を2実践で示し、学習の振り返りの記述を分析して、ミスコンセプションの解消と研究方法の妥当性を検証する。
<引用・参考文献>
阿部好貴(2013).「数学的モデル化からみた数学的リテラシーの捉え方」,日本数学教育学会『数学教育学論究 臨時増刊』,第95巻,pp.9-16.
岩崎秀樹(1992).「数学学習における「否定」の研究(1)」,日本数学教育学会『第25回数学教育論文発表会論文集』,pp13-18.
国立教育政策研究所(2007).『平成19年度 全国学力・学習状況調査 調査問題 小学校算数B』,p.13.
大滝孝治(2013).「確率ミスコンセプションの克服に関する否定論的考察:小数の法則を事例として」,全国数学教育学会『数学教育学研究』,第19巻,第2号,pp.109-115.
清野佳子(2011).「面積の概念の統合的な理解を図る指導の工夫‐図形の性質に着目した変形操作を通して‐」,日本数学教育学会『算数教育』,第93巻,第2号,pp.2-10.
辻宏子(2012).「平行四辺形の求積問題の解決にみる子どもの「高さ」の理解」,日本数学教育学会『算数教育』,第94巻,第4号,pp.2-10.