教育的支援を必要とする児童の中には「相手の立場に立って考えることが苦手」、「自分の考えがなかなかもてない」という児童も少なくない。状況を理解することが苦手な彼らが友達の考えを認めつつ、主体的に判断できるようにするには、どのような指導が有効なのであろうか。
役割演技を取り入れた道徳授業に詳しい早川(2004)は、役割演技による道徳授業によって、「道徳的な価値のよさについて、単に『知識』としてではなく『実感』として理解することができる」と述べている。また、道徳教育改善研究会(2009)は、「相手の立場を認め、自らを律する態度が生まれてくることが期待できる」と述べている。これらの指摘は、役割演技が、友達の考えを認め、自ら考え判断しようとする態度の育成に有効であることを示唆している。
そこで本研究では、道徳の時間に役割演技を取り入れることで、支援を必要とする児童が友達の考えを認めることができ,主体的に判断しようとする態度を育成することができるとの仮説に基づき、その結果を明らかにすることを目的とした。
役割演技を取り入れた道徳授業は、小学校6年生を対象に、計4回実践した。最初は自分の考えをもちやすいように、主にAorBという二者択一の判断を迫られる資料を扱った。こうした資料では、他の児童の考えも分散しにくく、友達の考えに目を向けやすいと考えた。後半では、多様な判断が可能な資料を扱った。言い換えれば、判断に迷う難度の高い資料である。判断に困るからこそ、友達の考えを参考にして自分の考えを深める姿が期待できると考えた。
実践の結果、実践当初では道徳的価値への気付きが浅く、文量も多いと言えなかったが、実践を重ねていくことで道徳的価値に関する記述が見られるようになってきた。授業記録には、判断に影響を及ぼしたと考えられる場面があり、役割演技をした友達の言動や、他の観客役の児童の発言を参考にしていることがうかがえた。このことから、役割演技を効果的に取り入れることにより、友達の考えを認めながら、主体的に判断しようとする態度を育成できる可能性が高いと言える。また、支援を必要とする児童は、演者よりも観客として参加するほうが新たな考えに気付きやすいことが分かった。
<参考文献>
シリーズ・道徳授業を研究する1 役割演技を道徳授業に 早川裕隆 明治図書 2004
平成20年版 小学校新学習指導要領ポイントと授業づくり 道徳 道徳教育改善研究会 東洋館出版社 2009。