私は教員生活のほとんどでソフトテニス部の指導を行ってきた。今も総勢73人の女子ソフトテニス部の顧問である。
若いころはとにかく勝ちたかった。しかし、ある指導者の一言が私を変えた。
ずっと尊敬し、お世話になっていた岩手県の先生が全国大会で3位に入った。自分のことのようにうれしく、準決勝で敗退した後、その先生と生徒の元へ駆けつけた。生徒は準決勝で敗れ泣きじゃくっていた。おめでとうございますという私にその先生は決して浮かれることなく、穏やかに話してくれた。
「ありがとうございます。でも、本当の勝負は10年後です。この子がこの涙を乗り越え10年後に立派な大人に成長して初めて勝利です。市内大会1回戦で負けて流す涙を乗り越え、もっと立派に成長する子がいるとしたらその子が本当の勝者になります。」
部活動は中学3年間で勝利することだけが目的ではない。生徒のほとんどがどこかで負けて泣いて終わっていく。その涙を乗り越え、10年後、20年後に大きく成長していくことが部活動の大切な目的ではないだろうか。
しかし、部活動運営は年々厳しさや難しさが増している。交流欲求を十分満たされていない生徒たちは未熟なスキルでかかわりを求め、トラブルが頻発する。教師も疲弊している。
そこで、日ごろの部活動にピア・サポートやSEL(社会性と情動の学習)などの理論を元にした、様々なスキルトレーニングを取り入れ、良質なコミュニケーションの機会を提供する部活動を実践した。部長や副部長にはピアメディエイショントレーニングを行い、トラブル回避のスキルを身に付けさせた。
その結果、1面のテニスコートで73人が活動するソフトテニス部が市内大会1回戦負けでも、退部者0(ゼロ)、部活満足度100%を実現できた。さらに10年後、この生徒たちが部活の経験を元に立派な大人に成長してくれることを確信している。