1.問題の所在と研究目的
新潟市内の小学校研修会の一つである図画工作部(以下,図画工作部)では,平成21~23年度,造形活動の過程で意図的に人・もの・こととのかかわりの場を設定し,人・ものなどの学習対象とかかわる実践例を蓄積してきた。特に,こととかかわる実践では,美術館を活用し,見方や感じ方を豊かにする活動を行った。美術館では,「何を材料として作られたか」「作者の作品に込める思いとは」という学芸員の焦点化した問いかけにより,子どもに「こと(作品に込める作者の思い等)」とかかわらせることができた。このような作品との出会いが,「見つけ,考え,話す」という主体的な鑑賞姿勢を促した。そこで,本研究では,図画工作部の課題を解決するため,「こと」とのかかわりを工夫した実践例を増やし,豊かに発想したり,表したりする子どもを目指す。
2.題材について
本研究では,「こと」を「事象や現象,出来事など(例:水たまりに入った色水の変化や光などの事象,風や林,川のせせらぎなどの自然現象,その地域の歴史・風土・伝承・行事などの出来事,作品に表現された芸術家の思い・語り・つくる行為)」ととらえる。
平成24年度は,7月14日から12月24日まで,「開港都市にいがた水と土の芸術祭2012」が開催された。同芸術祭の「みずつち こどもプロジェクト(工夫された楽しい造形活動と人と触れ合う体験を通して,子どもたちの感性に直に働きかける企画)」では,希望により芸術家(以下,アーティスト)による出前授業を受けたり,教員とアーティストとの授業を行ったりすることができる。そこで,この機会を活用し,「こと(作品に表現されたアーティストの思い・語り・つくる行為)」とのかかわりに着目した授業実践を行った。
3.実践の概要(小学校第1学年「ならべて,かさねて,つんでみると」,全4時間)
1時間目
○みずっちタンク(旧浄水場)に行き,アーティストが人工物を組み合わせて制作した作品を鑑賞し,作品について疑問に思ったり,質問を考えたりする。
・テーブルの上に色々なものがならべてあるよ。弁当箱みたい。
・ぼくも,並べたり,積んだりできるよ。
○アーティストに自分たちが考えた作品の質問をする。
・どうして,テレビが付いているのですか。
・どうして,屋上にペットボトルを並べたのですか。
2時間目
○アーティストに質問したいことを考える。
・なぜ,芸術家になったのですか。
○アーティストと教室での再会後,複数の質問をする。
○机の中にあるもの(筆箱やノートなど)を並べたり,重ねたり,つんだりする。
・筆箱の上に鉛筆を置いたよ。
・定規や鉛筆を重ねたよ。
3~4時間目
○校内鑑賞ツアーに行き,アーティストの作品を鑑賞する。
・バランスよく並んでいるよ。
・何かの生き物みたいだね。
○アーティストから,適宜,作品について,コメント(バランスよく並べているね。左右対称に積んでいるね。など)をしてもらう。
4.実践のまとめ
成果は,児童がアーティストと直に接し,同じ時間・場を共有したことで,感性がダイナミックに動きだし,今までとは異なる発想や構想の力を働かせることができたことである。また、アーティストと教育者という異なる側面を持つ二人がコラボレーションして授業を創り上げることで、新しい美術教育の可能性を探ることが出来たことである。
課題は,授業に対する共通認識を協働でつくりあげるに当たっての方法論の構築である。