「全国学力調査B問題を解答できる力を伸ばしたい」という思いから本研究を始めた。全国学力調査のB問題では,数学的活用力が問われる。つまり,実生活などの様々な場面において,数学を活用する力である。数学的活用力を伸ばすためには,
①その状況(問題や文脈)の正確な理解,
②規則性や原理・定理などの発見的な学習と,それを検証する経験,
が必要である。
既習の内容を使い新たな法則を発見する経験を繰り返しすることによって,既習事項を活用する力や,新たな法則を発見する手順を身につけることができると考えた。
数学的活用力を育成する手段として,「ならば文」を用いた。「○○ならば○○である」という『ならば』を使った文は,課題の前提条件・仮定・結論を明確にする。実生活の場面では『ならば』が使われた表現はほとんどないが,解決すべき状況や問題を,意図的にならば文で表す(命題化する)ことによって,仮定や結論がはっきりし,生徒の理解が明確になる。また,命題化することにより条件変更が容易になる。条件を変えて新たな課題を作り,その結論を予想することや検証することを通して,発見的な学習の経験を多く積むことができると考えた。
本研究では論証問題を中心に,①ならば文による問題のとらえ直し,②仮定を一部変更した新たな課題を提示,③新たな結論を見いだす活動と,その結論が成り立つ理由を考え伝える活動,の流れで実践をした。条件変更によって現れる新たな結論を,自分の力で見いだせた生徒は約1/4程度であった。しかし,他に伝わる発表を意識して伝え合い活動を行うことにより,ほとんどの生徒が新たな結論を理解した。同時に,生徒が他に分かりやすい表現をしようと試行錯誤する姿も多く見られた。
本実践の後,今年度の全国学力調査「数学B」における論証問題では,若干ではあるが,正答率が上昇し,無答率が減少した。