「読むことはおもしろい」そのように前向きな気持ちで文学作品と向き合う子どもたちを育てたい。「読むことのおもしろさ」は「読みが深まること」にあると考える。つまり、「作品を読んで得られた考えを交流させることで、物語や登場人物に対する考えが広がったり、深まったりと変容すること」である。
これまで私が行ってきた物語文の授業での話合い場面では、活発な子の発言のみで授業が進んでいく展開が多かった。子どもたちの考えをうまく交流させられず、教師が整合性があると思われる一つの読みを共有させ、まとめて終結させるような授業であった。
そこで、本研究では新潟大学の佐藤佐敏准教授が「読みが深まる話合い」として提唱した「解釈のアブダクションモデル」を小学校段階でも工夫して取り入れることを通して、子どもたちの読みの広がりや深まりを検証していった。具体的には、選択式(二者・三者択一)の発問をした後に「立場、証拠、理由」に分けて自分の考えをもたせた上で話合い活動を組織することを手立てとした。
実践の初期では、「立場、証拠、理由」に分けて自分の考えをもつことに抵抗を示していた児童が多くいた。しかし、単元を通して選択式の発問を繰り返し行ったり、ノートを細かく見取っていったりすることで、教師が期待する筋道の通った考えを書くことができるようになった。
授業で書いた児童のノート記述を見ると、「私は、○○という立場が強くなった。今日は、○○さんの考えに一番納得した。なぜかと言うと・・・」というように解釈が広がったり深まったりしていく様子が見られた。
課題としては、選択式の発問の扱い方が挙げられる。教材価値に迫る発問を開発すること、また単元のどの場面で用いることが有効であるのか、今後も追究していきたい。
【参考文献】
「思考力を高める授業~作品を解釈するメカニズム~」佐藤佐敏 三省堂 2013