文部科学省によるSociety5.0における学びの在り方として、一斉一律授業から読解力など基盤的な学力を確実に習得させつつ、個人の進度や能力、関心に応じた学びへ転換を求めています。現状の課題としては、「他者と協働しつつ自ら考え抜く自立した学びが不十分」と指摘しています。
児童が他者と協働しながら個に応じた資質・能力を育成できるよう、教師が単元を設計していく必要があります。
藤村(2012)は、心理学の観点から、様々なタイプの算数・数学の問題の解決には、必要な認知プロセスが異なると述べています。計算能力のようなスキルの学力形成は反復練習や個に応じた指導が必要だとし、概念理解や思考力の形成には協同的探究学習が必要だと述べています。
さらに、西川(2014)は、算数の陶冶価値について「教師の管理下のもとに能力差の現実に向き合わせ、いっぱい問題を起こさせ、その問題を乗り越えられる子ども、子ども集団を育てる」ことだと述べています。
授業場面における課題は、様々な知識やスキルを総合して使いこなし学習者同士の関わる必然性があることが重要です。そこで、課題設定を「他者を納得させる方法を工夫し説明ができる」というような学習者同士の関わり合いによる相互作用を生かしたものが有効だと考えました。
また、個人の進度や能力、関心に応じて学びを深めていけるように、単元設計も工夫しました。教師の一斉授業形式の介入をできるだけ減らし、単元の全ての課題を単元計画とともに単元の最初に児童に全て与えました。
本研究は、小学校5年生の「体積」の単元を対象に、児童同士の相互作用を生かした課題を単元を通して行うことで、学力への効果や教科に対する意識にどのような影響を及ぼすかを検証しました。
検証の結果、「算数の授業で問題を解くとき、もっと簡単に解く方法がないか考えますか。」や「算数の授業の後、学習したことが生活の中で使われていないかと探しますか。」といった算数に対する課題の向き合い方や生活の中での算数のつながりについての意識に一定の効果が実証されました。
<参考文献>
文部科学省:「Society 5.0 に向けた人材育成~社会が変わる、学びが変わる~」、 2018
藤村 宣之:「数学的・科学的リテラシーの心理学」、有斐閣、2012
西川純:「『学び合い』から見た算数を学ぶ意義」、新しい算数研究、№521、pp.10-11、東洋館出版社、2014