平成19年度から実施された全国学力・学習状況調査の数学B問題の結果を分析すると、毎年、選択式・短答式の問題に比べて記述式の問題の正答率が低い。また、無答率も高いことから、事象を数学的に捉え、数学的に考察する力が不足しているのではないかと考えた。
新学習指導要領の改訂のポイントは、平成28年8月の中央教育審議会答申では「主体的に学び続けて自ら能力を引き出し、自分なりに試行錯誤したり、多様な他者と協働したりして、新たな価値を生み出していくこと」の必要性が提言され、「主体的・対話的で深い学び」を実現する授業改善の視点が取り上げられている。
そこで、各単元の指導に問題解決型学習を取り入れ、その学習を「ワールドカフェ形式」の学習指導法で行うことにより、数学的な思考力や表現力等を育成しようと考えた。この「ワールドカフェ形式」の学習の特徴は、話し合う班のメンバーを入れ替えながら、課題解決を行い、特に生徒に役割を持たせず、必ず全員が2回は考えを説明する場面を設定しているという点である。
実際の実践では、初めは課題を解決できなかった班も話し合い活動を通して課題を解決しており、どの班も一つの解決方法にとどまることなく、複数の解決方法に言及できていた。本研究の学習活動を通して、生徒が自然と複数の解法を探ったり、新たな見方を習得したりできるようになったと考えられる。これは、自分たちの班が気付かなかった見方に触れ、その根拠も確認することで思考力が身に付いたと考えるからである。また、他者の説明を通してその根拠や解答の妥当性について班で吟味したり、交流活動において考えを比較・検討したりする中で、根拠が不十分なものや誤答については修正を加えることで、数学的な思考力や批判的思考力の育成につながったと考える。
本研究の3年間の実践を通して、生徒に数学的思考力・表現力を身に付けさせるためには課題が重要であることが分かった。特に、多様な解決方法が期待できる問題解決場面や複数の手順を踏む課題、条件が含まれる課題解決場面において、有効な指導法であることが明らかになった。更に、この活動の根底には、「忌憚なく、誰とでも対話できる雰囲気(学級)づくり」「生徒同士が認め合う雰囲気(学級)づくり」を普段から意識しておかなければならないことも課題として明確になった。