教育データベース

2017.11.07

中学校

社会

新潟

平成29年度

絵画史料と文字史料の複合的な吟味・検討による歴史認識の育成

新潟市立上山中学校 早福 史

 本論の目的は中学校社会科歴史的分野において、絵画史料と文字史料を複合的に用いた授業により、生徒の多面的・多角的な思考の育成方略を明らかにすることにある。
 絵画を用いて生徒に視覚的なイメージをもたせたうえで歴史を考えさせることは、生徒の思考力の育成に有効であり、これまで多くの実践がなされてきた。しかし、絵画史料は写実的ではないため、絵画を通して生徒が獲得する歴史認識は絵画史料の作者の時代像に大きく影響されるという問題点があった。
 そこで、絵画史料の作者がどのように時代を見ていたかを生徒自身が検証するというプロセスを授業に組み込むことで、先行研究・実践の問題点を克服し、より多面的・多角的な思考を育成する。そのために、本時では次の手だてを用いることによって授業を構成する。

【絵画史料と文字史料を複合的に吟味・検討する授業の手だて】
1 絵画の作者がどのように歴史を見たのかを問う
2 絵画で表現された当該期の時代像を文字史料から吟味・検討する 

 1,2の活動を組織するためには、絵画史料の作者の社会の見方が十分に反映されている絵画史料を選定する必要がある。本論では、「中世ヨーロッパとルネサンス」の単元を扱ったが、この時代の資史料で、上記の条件を満たす絵画史料と、それを吟味・検討する文字史料として以下の資史料を用いた。
【絵画史料】ピーテル・ブリューゲル作「死の勝利」
【文字史料】ボッカチオ作「デカ・メロン」

 前時までにヨーロッパ社会はイスラーム圏との接触(十字軍の遠征)によって豊かになったという思考を形成した。本時の授業において、「死の勝利」を提示すると、生徒の中に絵の暗い印象と前時までの時代認識にズレが生じた。絵画史料から読み取れる歴史像は妥当なものなのかを文字史料で吟味した生徒は、他文化との接触によって社会が衰退したとみることもできるという新たな見方の存在に気付いた。生徒は、当該期のヨーロッパ社会を「(イスラーム圏との)交流によって新しい文化が入り良くなったけど黒死病という病が流行した。」と表現した。この記述から、生徒が中世ヨーロッパ社会を文化の流行という社会の繁栄という側面と疫病の流行と混乱という側面から多面的に捉えたことが分かる。
 以上のように、絵画史料に象徴された作者の見方・考え方を文字史料から吟味・検討することで多面的・多角的な歴史認識を育成することができた点に本論の成果がある。